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ご先祖は木曾義仲“もののふ”の香気 菊岡泰政(きくおか・やすまさ)さん

奈良町写真

三条通りからここ奈良町へ。江戸中期に建てられた町家は奥行きが30メートル近くあるという。

奈良町写真

陶製の薬研(やげん)。「くすりおろし」ともいう。薬効のある草・根・木や鉱物質などを粉砕するのに用いる。

奈良町写真

大国主命像。打ち出の小槌が下がって居る方が時代が古いというが、この像もかなりの年代ものとみた。

心落ち着く古びたものの色合いや匂い

神様か王様でもやってきたように客を迎える店は正直つかれる。かと言って、客を値踏みしたり、敷居の高さをちらつかせるような店は言語道断。店も客も対等、かつお互い尊重できる関係がいちばん気持ちいい。

菊岡漢方薬のご主人、菊岡泰政さん(54歳)のお話は、店の中で聞くことができた。土曜日ということもあり、江戸中期に建てられた味のある町家造りの店舗は、観光客の注目の的だ「辛さ。びっくり、旨さやみつき、うどんや風一夜薬(かぜいちやくすり)本舗のしょうが飴」など、おみやげ向きの商品も店先に並んでおり、一見(いちげん)さんが吸い寄せられるように店の中に入ってくる。そのたびに商売の邪魔をしてはいけないと席を外そうと思うのだが、菊岡さんの話は中断することなく続いていくので、そのまま恐縮しながら聞き入る。どやどやと大勢入ってきても、同じである。もちろんお客をないがしろにしているわけではない。ほどよいタイミングと音量で「いらっしゃいませ」の言葉が発せられる。これも老舗の持ち味の一つかも知れない。浮き足立つわけではなく、客が入ろうが、入るまいが関係なく、いつも沈着としているのだろう。

老舗というものには居心地のいい空気感がある。古びたものの色合いやら匂い。何年も何十年もその場から動いたことのない置物や細々としたなつかしいものを見ているだけで気持ちが落ち着く。そのせいか、一度店に入った客もなかなか出て行こうとしない。お話を伺っている間、クラシック音楽がCDプレーヤーからずっと流れ、お香が焚(た)かれていた。こちらもまた心地よいまったりとした時間に入りこんでいく。